『浪人街』以来10年ぶりの黒木和雄監督作品をDVD化。かつて“伝説のスリ”として名を馳せた海藤はアル中で身体を壊し、彼に代わってレイが稼いでいた。ある日、海藤の元へ一樹が弟子入りしたことをきっかけに、海藤は現役復帰を決心するが…。
あの木材はどっから調達するんだろう・・・。
これ、全然売れてない映画だけど、すごくいいから、原田芳雄が主演だしね、っていうことで勧められて観たんですけど、確かに地味ではありますが、私好みの良い映画じゃないですか。
原田芳雄が演ずるのは初老のスリ。 アル中になってしもうて商売に支障をきたすほどに。 そんな彼を中心に、それほど広くない範囲で物語が進みます。 舞台はリバーサイドでありますが、月島なのでしょうか。 もんじゃの焼き方が土手を作るやり方でしたものねぇ。
香川照之の(泥酔しての)キレっぷりはすごいものがありましたけれど、それよりなにより再発見だったのは風吹ジュンでありましたなぁ。 劇中、主人公から
「呑みたいねぇ、呑みたくなる顔してんだ、あんた」
と言わしめる(こんなに原田芳雄に似合い台詞があるものかって評価もありますけど)風吹ジュンの可愛らしさは、多少犯罪的でもありますよね。 しかも断酒会の筈の風吹ジュンが、呑んじゃってべろんべろんに泥酔するんですけど、その可愛らしさは犯罪を通り越してなんかもうすごいことになっちゃってるんですよ。
映画は淡々と、客観的な視点から淡々と流れ、案外これが心地良いんです。 10年程前の映画ですけど、古臭さは当然感じませんでしてね。 ただ、序盤で唐突に公園(?)のシーンが。 公園みたいなところのフェンスの前で、ギターを引きながら女性が歌を歌うシーンがあるんですけど、あぁいうのって何の意味があるのかわかんないんですよね。 そういう、よくわかんないシーンが入るところに、唯一時代を感じるのではあります。
・・・ビルの屋上に住むっていうのは、私にはあこがれのようなものがあったのを思い出しました。 これって恐らくは小椋冬美(の作品)の影響だと思うんですけど、そういう設定がありまして、あぁいいなぁって思ったもんですよ。 こう、ビルの屋上に住むっていうのは、ちょっと浮世離れしてると言いますかね、世間から一歩引いて生きてるんだぜ?的な雰囲気がありますよね。
スリという商売をしている主人公ですから世間と混ざり合わないところがあるんですけど、断酒会には参加してみたりとか、揺れている様を見るのがいいですよね。 とてもいい映画でした。