野性の証明

この頃の角川映画はイケイケで、確かに時代を作った。 よくよく思えばこれが薬師丸ひろ子のデビュー作で、これより前に薬師丸ひろ子が主役を張って「カ・イ・カ・ン」などとつぶやいた作品はないわけで、要するに薬師丸前・後でいえば、前なのではありますです。

森村誠一のベストセラーを、高倉健と薬師丸ひろ子主演で映画化したバトルアクションのデジタル・リマスター版。大量虐殺事件の生き残りである少女と平穏に暮らしていた元自衛隊員・味沢は、運命に操られるように巨大な陰謀に巻き込まれていく。

斧で首を切断する(あんなに綺麗に断てるかよ?)とか、脳天に斧を叩きつけるとか、なかなかに恐ろしい描写が続く前半がこの映画のみどころ・・・というか、「観られるところ」。 後半は原作と違うそうですが、その後半がどんどん尻つぼみになってしまい、脈絡も失われ、ふざけんなこの映画!って思わせてくれます。 世に駄作だ駄作だと言われる所以であります。

戦車と軍ヘリを出したかっただけじゃないか?と言われればそれまでであろうと思わせる後半は、そのまま戦国自衛隊に通ずるものがあり、この流れで言えば戦国自衛隊はまったくお薦めできないものになりまして、何が違うかと言われれば、高倉健かサニーかってくらいです。 ちょっと目を離せばそこには松方弘樹が鎮座ましまし、どすの利いた声で(自衛隊の)部下に命令しているのでありまして、こちらはこちらでそのまま(高倉健もおるし)仁義無き戦いに通じてしまうのであります。 まったく困ったものであります。

東北の寒村で起きた大量虐殺事件、というのが前半の主たるストーリーになるんですけど、その解決はあっけなく、野菜の病気ってあれなんだったんだ?(申し訳程度に触れられていてよくわからない)とか、結局高倉健はどうだったのよ?(ちゃんとシーンがあって触れられているんだけど、かなりどうでもいい)とか、グダグダのまま梅宮辰夫が大活躍して別の映画に仕立て上げてくれちゃって、後半に雪崩れていく、という構成でしょうか。

その中でも一際存在感を示しているのが、夏八木勲ではなく(今回も残念)、成田三樹夫先生でしょう。

この人、こういう役をやらせたらピカ一であります。 今回は極道ではないものの、言い直せば極道よりも恐ろしい存在に属しておりまして、あれやこれややるんですけど結局は殺されちゃう。 そんな毎度な役柄ではありまして、その安定度は眼を見張るものがありますけれど、他がだらだらしている分、際立って良く見えるんですよね。

ま、先生はどうであってもよく見えるんですけどね。