裸の大将放浪記 山下清物語

子供の頃、というか昭和の家庭では、必ずと言っていいほど灰色のケースの芥川龍之介全集と、緑の裸の大将放浪記があったと勝手に決めつけている今日このごろなんではあり、父親から「これらは読んでおけ」と言われたにも関わらず、芥川はそれなりに読んだものの、山下清の文体には結局慣れることが出来ず、断念っていうか放棄したおぼえがあるんだな、やっぱり。

そういう経緯があるので、テレビドラマもそれなりには見たけど、なんというかぬるいというか、実際はこうじゃないだろう?っていう気持ちを持ちながら見ていたので特段の感想もなくて。

こないだ見た「はだしのゲン」と同じ制作会社で、同じ監督とで、この裸の大将放浪記が映画化されていたと知り、見たんですよ。

山下清を知るならば、この映画が最適なんじゃないかって思って。 いろんなところにさまよってぇー、いろんなひととであってぇー、そのたびに絵を描きました切り絵作りましたぁー、っていうハートフルな展開はここに存在せず、そりゃコミカルなところはあるけど、あくまでも「こういう知的障害者の画家がいました」っていうスタンスを崩さず、とりまく周辺の環境(玉緒がかーちゃん、弟が小雁なんだもん)をじょうずにとらえている映画なんですよね。

終盤、玉緒・・・いや母親が、障害を持つ子供を持つ親は子供より先に逝かなければならない苦しみと憂いがあるみたいな事を吐露するんですけど、子供というものを授かった私としましても、胸をしめつけられる思いがしましたよ。 あー。 うん、そう。 そうなのよ。

ところで小松政夫が矢田喜美雄役として出ているとこの事なんですけど、あれってあの矢田喜美雄?というのはさておき、小松政夫がとてもいい。 そもそもにこの映画、なかなかのキャストなんでありますけど、小松政夫が「清くんは就職できなかったんで山下清になったんだな・・・うん」っていう台詞を吐くんですよ。 これがね、あぁ小松政夫が精一杯やってるよ!やってるんだよ!ってね。

裸の大将放浪記の実写モノは、この他に映画があって、先のドラマと、比較的最近のドラマがあるそうですが、話によるとこの映画以外はハートフルらしいんですよね。 だからこれは見た方がいいと思うんですよ。 なんかね、情け容赦ないですからね。 他人からはキチガイと呼ばれ、自分ではルンペンと言い、ダークな空気がぷんぷんしてまして、すごく人間的ですよ。

放浪の天才画家として知られる山下清を芦屋雁之助が好演。障害を持ちながらも戦時中の混乱期をも自然体で生き、晩年には日本のゴッホとまで呼ばれるようになった山下清の半生を感動とユーモアで描き出す。母親役は中村玉緒。