リアリティのダンス

1920年代、幼少のアレハンドロ・ホドロフスキーは、ウクライナから移民してきた両親と軍事政権下のチリ、トコピージャで暮らしていた。権威的で暴力的な共産主義者の父と、アレハンドロを自身の父の生まれ変わりと信じる母に愛されたいと願いつつも 大きなプレッシャーを感じ、また、ロシア系ユダヤ人であるアレハンドロは肌が白く鼻が高かったため、学校でも「ピノキオ」といじめられ、世界と自分のはざまで苦しんでいた…。青い空と黒い砂浜、サーカス、波が運んだ魚の群れ、青い服に赤い靴。ホドロフスキー監督は映画の中で家族を再生させ、自身の少年時代と家族への思いを、チリの鮮やかな景色の中で、現実と空想を瑞々しく交差させファンタスティックに描く。

ホドロフスキーの新作。 ホドロフスキーが新作つくるなんて、あぁ生きててよかった。 新作って奥さん20何年ぶりなんですってよ。 「サンタ・サングレ」以来かと思ったら、その翌年(1990年に)「The Rainbow Thief」っていうのを作っているんだそうな。 むしろこれが(作品として)やられ放題だったために映画をつくるのをやめてしまったのではあったそうな。

さて、「リアリティのダンス」。 さすが10年代でありまして、CG効果がやっとこさホドロフスキーに追いついた、と思ったらさすがホドロフスキー、これはCGなんだなぁっていう印象を軽く超えるような圧倒的な想像性を発揮してくれやがります。 海「との」シーンでツカミはOKなんだなぁ。

そもそもにホドロフスキー自身の幼少の頃をベースにしており、作品自体自身の息子達を出演させ、奇妙なスパイラルが渦巻かれているんですけど、基本的にはエル・トポから通底された映画への取り組み方のような気がします。 もちろんホドロフスキーも出演している。 自身の「今」として。

自身の「今」じゃない、幼少の頃のホドロフスキーがあの少年。 っていうかジャケ写真をみて最初、少年だとは思わなくて。 そこが一番驚いたかもしれないなぁ。

ともあれ、ホドロフスキーの新作は、まぎれもなくホドロフスキーでした。 私には、この映画にホドロフスキーが妥協を余儀なくされた部分はないように見受けられました。 錬金術的奇跡性もじゅうぶんに散りばめられており、ペストを治すシーンなんてすごすぎるし、あれって「ホーリー・マウンテン」の人糞から黄金をつくりだすシーンと対になってるのかなぁなんて勝手に妄想してみちゃったりなんかして、あぁホドロフスキーはやっぱりすごかった。