葛飾物語

かつて下町の路地で肩寄せ合って暮らした三軒長屋の面々が、それぞれの悲しみと別れを乗り越え、今年もまた、春野家の当主の命日に集う―暗雲たちこめる戦時下から、戦後四十年余りを経た平成の初めまで、時代の奔流の中で逞しく生きた庶民の「昭和」を描く長篇小説。

「昭和か!」とつっこみを入れてそれが成立するのも、昭和が遠いものになって、昭和じゃなくなってから産まれた子がはやアラサーに肉薄するしないのレベルに達してるからだと振り返る時に、すごくやな感じがする。

とはいえ昭和が悪いんじゃなくて、あくまでも昭和に生きた若いころの自分自身が嫌いなだけであり、また翻ると、平成になってからだって当時の自分自身が好きになったかというとそんなことはないのであり…なんていう、ややこしい自己嫌悪があったりなかったりです。

この作品には思う存分昭和が封じ込められており、読み進めるにつれて滲み出してきてしょうがない。 年代(時代)をタバコの銘柄で示すのがなんともさり気なくて著者らしいけど、それよりも「著者らしい」と思うのが、会話、特に女性の話し言葉であります。

「あら、その着物、仕立て直しちゃうの…」

・・・特に女性に限ったことじゃなかったか。 話し言葉全般かもしれない。 この著者の書く、話し言葉がどうにも好きなんだよね。