Coat of Many Cupboards (XTC)

Fuzzy Warbles と同じ頃にリリースされていたのを私は知らなかった。 んで今頃になって聴いてみると、Fuzzy Warbles の時と同じ感想が口をついて出るのでありました。 「それにしてもデモの時点で相当完成しちゃってる」のだと。

「相当完成しちゃってる」とは書いたし思ってもいるんですけど、やっぱりリリース版はその熟成度が違う。 こういうデモ集・ボツテイク集をいきなり聴くんではなく、ビギナーさんはぜひとも(正規の)リリース版を聴くべきじゃないかなぁ。 English Settlement から Orange & Lemons まではマストアイテムなんであります。

ちなみに私は今回、初期のを「再発見」したところでありまして、まともとはいえないしぶっ飛んでるベースラインはまだしも、気がふれてんじゃないかと思わせるギターなんて、パンクだニューウェーブだを軽く超えていたんだねぇ。 若い頃、こういうのを好んで聴いていたのだろうか、今となっては思い出せない。

『Coat Of Many Cupboards(食器棚のコート)』なんて変な、でも彼ららしいタイトルをつけるバンドはXTCくらいのものだろう。昔の中途半端な作品や出来の悪い曲は隠しておきたがるアーティストが多い中で、彼らは喜んで見せてしまうのだから。しかし、幸運にもこの4枚組ボックス・セットに収められたホーム・デモ、スタジオ・デモ、シングル没曲、アウトテイク、酔った勢いのおふざけ音源、さらにテレビやラジオ出演の音源、デューク・オブ・ストラトスフィア名義のサイケ趣味は、彼らがポップス・メーカーだった15年の掘り出し物だ。
特におもしろいのは、キリスト教信者を皮肉った「Dear God」に追加された一行(「やつらは聖歌を歌いながら、爆弾をためこんでるぜ」)やアンディ・パトリッジのホーム・デモ版「Ballad of Peter Pumpkinhead」。後者はオリジナル版と聴き比べてみるのもおもしろい。『Dums And Wires』からの3曲が初のチャート・ヒット「Making Plans For Nigel」に続くシングルとして再録されながら、なぜか没になったのも不可解だ。しかも代わりにシングルになったのが、何とも不吉なタイトルの「Wait ‘til Your Boat Goes Down」だったのだから。
後期になるとビートルズと比較されることの多かったXTCだが、初期のナンバーにも注目したい。ベッドで漫画を読む「Science Fiction」、仲良ししたい「Meccanik Dancing」、教会の礼拝中にナッツとポテトチップとコーラを飲み食いする「Life Begins At The Hop」はビートルズよりはアニド・ブライトンの小説『Famous Five』を彷彿とさせる。しかし意味不明のウィットも彼らの持ち味。1982年の海賊盤が横行した『Drunken jam Sessions』収録の「Shaving Brush Boogie」やこのボックス・セットには未収録の「Silver Sewing Machine」(ホークウィンドのトリビュ-ト盤に収録)は聴きものだ。遅ればせながら登場の今回のボックス・セット。過去のシングルより売れてしまったら皮肉になるが、チャート・ヒットは少ないものの、XTCの未来は常に英国製鉄公社のそれよりはずっと明るかったことは事実だ。