江戸っ子侍(柴田錬三郎)

時は天保の江戸。無頼で勘当された旗本次男坊・浅形新一郎は、誕生日の夜に出会った大泥棒・吉兵衛から、伝奏屋敷に囚われた娘を救い出すよう頼まれる。引きうけた! 敵は公儀庭番をも味方につける大商人。救出劇は剣豪、美女、すり、元大目付らを巻き込み、二転三転。新一郎、絶体絶命の危機へ。娯楽活劇の傑作。

前のエントリーで、実存の主人公を虚実織り交ぜ昇華させる隆慶一郎の作風はうんぬんと書きましたけれど、虚だけでエンターテイメント性を猛烈に成立させてしまうのは柴錬の得意とするところで、眠狂四郎しかり御家人斬九郎しかり。

お江戸日本橋という似通った作品もあるそうで、そっちも大変に読みたいと思わせるほどにこっちも面白い。 上下巻なのに一気に読めてしまいました。 というか読まずにいられない。 引き込まれてしまうんですよ。

主人公は旗本次男坊(←これがもうすでに柴錬)なんだけど美男で剣の腕も立つ、度胸も座ってて、ときとして若気の至りで無謀になってしまうこともあり、挙句の果てには四六時中モテ期なんですよ(男女関わらず)。

調べてみると六十年安保のころに新聞連載されたという本作。 たいへんに古い読み物ではありますけど、その後の七十年安保のころに書かれた小説一般とは違う、娯楽をこえたなにか凄みのようなものがあります。