レーベル主宰者でもあるケニー・コックスの作品。録音当時はジャケットまで用意されながら未発表に終わったが、後年マスター・テープが発見され晴れて作品化、大きな話題となった。ハード・バップからフリー・ジャズまでこなすピアニストだが、ここではラテン・テイストを取り入れたメロウなフュージョンといった趣だ。編曲も秀逸で、サウンドは重層的で立体的。絶妙のクロスオーヴァー感や、ときおり覗くアヴァンギャルドな感触も魅力。聴けば聴くほどに味わいが増す、練り上げられた音楽だ。
レビューで完結しちゃって話すこともないんだけど、補足するとレーベルとは短命に終わった Strata Records で、本作のレコーディングが 1974 年の 3 月 4 月、1975 年の 2 月 3 月ということで、まさに Strata の始まりと終わりに相当するという、本来ならば万を期してのリリース!としたかっただろうけど計画は無惨にも崩れ落ちてしまった。
本作で展開されるのはラテンジャズと、どういう風の吹き回しかっていう話なんではありますが、興味深いのは Beyond The Dream のオリジナルがここで聴けるということ。 1981 年にリリースされた 1978 年の Montreux Jazz Festival のライブ盤が Pharoah Sanders と Norman Connors の名義でリリースされていますけど、アルバムタイトルであり演奏もされたのがこの Beyond The Dream だととのことで、すごいところに繋がったなぁっていう話ではあるものの、実際問題私はこっちからこの Kenny Cox の未発表作に行き着いたわけで、経由のありかたっていうのは色々ですわい。
Lost My Love という曲が好み。 さすがシングルになっただけある。